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この「固まる」を、臆病・甘え・根性が足りない、と見ている大人は多いです。でも、固まっている子は、止まろうと思って止まっているのではありません。赤信号で止まった車に「なんで進まないの」と怒っても、信号は青になりません。この記事では、怖がって固まる子に何が起きているか、そして「勇気を出させる」のではない関わり方を書きます。
- 「固まる」が意思ではなく、自動で起きる防御の反応であること
- 「頑張れ」が効きにくい理由と、代わりに先に作る「小さな成功」
- 段を本人に選ばせる・見本は「少し前までできなかった子」にする理由
「固まる」は、体が勝手に踏んだブレーキ
人には、危険を感じたときに自動で動く一連の防御の反応がある、と考えられています。身構える、逃げるか戦うかを探る、それも無理だと「すくむ(フリーズ)」。この流れを防御カスケードと呼ぶ論文があります(Kozlowska ほか, 2015)。もとは心の傷や強い不安を扱った臨床の論文なので、跳び箱にそのまま当てはめるのはこちらの解釈です。ただ、1つ大事なことを教えてくれます。すくむのは、本人の意思で止めているのではない、ということです。
高い。逆さになる。落ちるかもしれない。この3つがそろう跳び箱や側転は、体にとって「逃げにくい脅威」に見えやすい組み合わせです。脅威と判定された瞬間に、体は止まる。ここで叱ると、子どもは「怖い自分」と「怒られた自分」の両方を抱えます。
出発点は、「怖いよね。それでいい」と認めることです。否定された怖さは、消えずにこじれます。
子どもの「怖い」は、わりと正しい

「大げさでは」と思うかもしれません。でも、跳び箱は学校の体育の中で事故の多い種目です。小学校だけで、跳び箱の事故は2015年度に14,887件、うち6,117件(41.1%)が骨折や靭帯損傷などの重い負傷だった、と報じられています(J-CAST ニュース, 2016・日本スポーツ振興センターのデータから)。跳び箱による死亡・重い障害の事例は、2005〜2019年の15年間で47件を数えた集計もあります(西山, 2021)。
数字は当時のもので、いまの値とは限りません。それでも、子どもの「怖い」は弱さではなく、かなり賢い警戒でもあります。ここで起きやすい不幸な流れがこれです。一斉に同じ段を跳ばせる → 怖い子が空気に押されて無理に跳ぶ → 手のつき方が崩れて事故。怖さを無視させることが、いちばん安全を損ないます。
「頑張れ」が、思ったほど効かない理由
自信(自己効力感)がどこから生まれるかを整理した古典的な論文があります(Bandura, 1977)。源は主に4つ。①実際にできた経験、②人ができるのを見る経験、③言葉での励まし、④そのときの体調や気分。いちばん強いのは①のできた経験で、③の言葉での励ましは弱いほうの源です。
「頑張れ」を100回言っても、本人の中に「できた」が1つも無ければ、自信は積み上がりません。励ましが無意味なのではなく、励まし「だけ」に頼る形に限界がある、ということです。
スポーツ心理学には、自信とコントロール感が高いと人は「挑戦」の状態に、低いと「脅威」の状態になり、脅威の状態では体が動きにくくなる、という理論もあります(Jones ほか, 2009)。固まっている子は、根性が足りないのではなく、体が動きにくい状態に入っています。
鍵は、成功を先に作ること

順番が逆になりがちです。「できたら自信がつく」と分かっていても、つい「自信を持って」と先に言ってしまう。自信は言葉で手渡せません。先に「できた」を体験させ、その事実で怖さを上書きしていく。
そのために、課題を失敗の出ない大きさに割ります。
- 跳び箱:またぎ乗り → またぎ下り → 低い段に手をついてまたぐ → 低い段でお尻を浮かせる → 1段だけ跳ぶ
- 側転:床に手形を置いて足を振り上げる遊び → 壁に向かって少しだけ逆さ → 線やゴムひもをまたぐ「川跳び」 → 補助つき側転 → ひとりで
いちばん怖くない段階から少しずつ慣らすやり方(段階的エクスポージャー)は、恐怖の治療で長く使われてきた原理です(起源は Wolpe, 1958)。「いちばん怖くない一歩から」は、信じてよい順番です。
そして1つ工夫を。段を本人に選ばせてください。「今日はどの段にする?」。これだけで小さなコントロール感が生まれ、同じ課題が「脅威」から「挑戦」に寄ります。
怖さは「消す」ものではなく「安全に慣れる」もの
怖さをゼロにしようとするほど、こじれます。目指すのは、安全な範囲の小さな怖さを、少しずつ重ねることです。高いところなど少しリスクのある遊びには、慣れを通して将来の恐怖を減らす働きがあるのでは、という仮説を立てた論文もあります(Sandseter & Kennair, 2011)。実証ではなく考察なので「そういう考え方がある」程度ですが、現場の感覚とはよく合います。
関わり方を並べると、こう変わります。叱る → まず「怖いよね」と認める。「頑張れ」を連呼 → 先に小さな成功を作る。一斉に同じ段 → 本人が段を選ぶ。上手な子の手本 → 少し前までできなかった子の手本。怖さをゼロに → 安全な小さい怖さに慣れる。
faqよくある質問
低い段ばかり選んで、いつまでも上がりません
上がらないのではなく、「できた」の数がまだ足りないだけです。低い段での成功を数えて見せる(「今日5回跳べたね」)と、たいてい自分から上を選びます。急かすと、せっかく貯めた「できた」が崩れます。
一斉指導で、1人だけ別の段にするのは不公平では
段を選べる形にすれば、全員が自分で選んだことになり、不公平ではなくなります。「3段の子」「1段の子」ではなく、「今日の自分の段」です。
家で保護者ができることは
「怖いよね」と認めて、小さなできたを一緒に喜ぶこと。布団の上でまたぎ乗りをする、壁に手をついて少し逆さになる。練習の続きを家でやらせるより、「怖がる自分でも大丈夫」と感じられる家庭のほうが、次の練習で一歩出ます。
summaryまとめ
- 固まるのは意思ではなく、体が自動で踏んだブレーキ。叱っても青にならない
- 跳び箱は事故の多い種目で、子どもの「怖い」はわりと正しい。怖さを無視させることが、いちばん危ない
- 自信の源でいちばん強いのは「できた経験」。「頑張れ」だけでは積み上がらない
- 課題を失敗の出ない大きさに割り、段を本人に選ばせる。見本は「少し前までできなかった子」
- 怖さは消すものではなく、安全な小さい怖さに少しずつ慣れるもの
怖がる子に足りないのは勇気ではなく、「できた」の数です。今日の小さな一歩を、成功として数えてあげてください。
参考にした資料
- Kozlowska, K., Walker, P., McLean, L., & Carrive, P. (2015). Fear and the defense cascade: Clinical implications and management. Harvard Review of Psychiatry, 23(4), 263–287.
- Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191–215.
- Jones, M., Meijen, C., McCarthy, P. J., & Sheffield, D. (2009). A theory of challenge and threat states in athletes. International Review of Sport and Exercise Psychology, 2(2), 161–180.
- Schunk, D. H., Hanson, A. R., & Cox, P. D. (1987). Peer-model attributes and children's achievement behaviors. Journal of Educational Psychology, 79(1), 54–61.
- Sandseter, E. B. H., & Kennair, L. E. O. (2011). Children's risky play from an evolutionary perspective: The anti-phobic effects of thrilling experiences. Evolutionary Psychology, 9(2), 257–284.
- J-CAST ニュース(2016年11月27日)「跳び箱の事故、小学校で年1万4887件」(日本スポーツ振興センターのデータを引用)
- 西山豊(2021)「跳箱運動の死亡・障害 47件(2005–2019)」(日本スポーツ振興センター 学校事故事例検索データベースより集計)
この記事の内容は公開時点のものです。公開されている研究や公的な資料をもとに plax labo 編集部が書いています。体調・ケガ・食事に関わる個別の判断は、医師や専門家にご相談ください。








