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この場面で足りないのは、根性でも回数でもありません。課題の大きさです。「逆上がり」という課題は、その子にとって大きすぎる。大きすぎる課題を何回やっても、失敗の回数が増えるだけで、できるようにはなりません。この記事では、課題を「最初の1回でできる大きさ」まで割る方法を、3つの方向と、教える順番で書きます。
- 「できない」の多くが、能力ではなく課題の大きさの問題であること
- 課題を割る3つの方向(時間・動き・条件)と、「最初の1回でできる」段の作り方
- 後ろから教える順番と、割った段を元に戻すタイミング
「できない」の正体は、たいてい課題の大きさ
発達心理学には「いまはひとりでできないが、少し助けがあればできる範囲」という考え方があります(Vygotsky, 1978・最近接発達領域)。学びが起きるのはこの範囲で、ひとりでできることをくり返しても、助けがあってもできないことを突きつけられても、伸びません。
逆上がりが10回失敗する子は、「助けがあってもできない」範囲に立たされています。コーチの仕事は、励ますことより先に、その子がいま立っている段を、「少し助けがあればできる」範囲まで下げることです。
自信の源としていちばん強いのは「実際にできた経験」だ、という古典的な整理もあります(Bandura, 1977)。できた経験が1つも無いまま回数を重ねると、積み上がるのは「できなかった経験」のほうです。小さく割って、少しずつ進める教え方は、プログラム学習の時代から「スモールステップ」と呼ばれてきました(Skinner, 1958)。新しい考え方ではなく、長く使われてきた基本です。
割る方向は3つ。時間・動き・条件

課題を割るときの方向は、3つしかありません。
- 時間で割る。「10回続ける」を「3回」に。「30秒」を「10秒」に。回数と時間は、いちばん簡単に割れる
- 動きで割る。1つの技を、動きの部分に分ける。逆上がりなら「ぶら下がる → 足を振り上げる → 腰を棒につける → 回る」。前転なら「しゃがむ → 手をつく → 後頭部をつける → 転がる」
- 条件で割る。道具・高さ・距離・相手を変える。逆上がりなら低い鉄棒・踏み台・補助ベルト。リフティングなら柔らかいボール・1回で手でキャッチ
「動きで割る」がいちばん効きますが、どこで割るかは技ごとに違います。迷ったら、その子がつまずいている瞬間の直前で割る。逆上がりで足が上がらない子なら「足を振り上げる」だけを、腰が離れる子なら「腰を棒につける」だけを、1つの課題にします。
「最初の1回でできる大きさ」まで下げる
割った段の大きさの目安は、その子が最初の1回でできることです。2回目でできる、ではなく、1回目です。
1回目でできる段から始めると、「できた」が最初に来ます。そこから1段ずつ上げると、どこかで1回目に失敗する段に当たる。そこが、その子のいまの「少し助けがあればできる」範囲です。その段で3〜5回練習して、できたら次へ。できなければ、もう1つ割る。
逆に、「もう少し頑張ればできそう」な段から始めると、最初に失敗が来ます。大人には「少し」でも、子どもには大きい。割りすぎを恐れないでください。割りすぎた段は1回でできて、すぐ次に進めるだけです。割り足りない段は、失敗を積みます。
後ろから教える

割った段を、どの順番で教えるか。おすすめは後ろからです。逆上がりなら、まず「回ったあと、鉄棒の上で体を支えて降りる」から。次に「腰を棒につけた状態から回る」。次に「足を振り上げて腰をつける」。最後に、助走から全部。
後ろから教えると、どの段でも最後は「できた」で終わります。技の終わり方を先に体が知っているので、前の段をつないだときに、終わりが見えている。前から教えると、毎回「途中で失敗して終わる」をくり返します。応用行動分析では、後ろから組み立てる教え方を「逆向き連鎖」と呼びます。
割った段を、元に戻すタイミング
割った段は、いつまでも割ったままにしません。戻す目安は、その段で3回続けてできたら、1つ上げる。3回できないうちに上げると、また大きすぎる課題に戻ります。
上げたら失敗した、というときは、その段のあいだにもう1段作ります。逆上がりの「踏み台あり → 踏み台なし」で失敗するなら、「低い踏み台」を挟む。段と段のあいだは、いくらでも細かくできます。
上手い子と同じ練習の中で、1人だけ段を変えるのは不公平ではないか、と思うコーチがいます。段を選べる形にすれば(「今日はどの高さにする?」)、全員が自分の段を選んだことになります。段を本人に選ばせる効果は、別の記事(跳び箱・側転で固まる子)に書きました。
faqよくある質問
割りすぎると、本人が「赤ちゃんみたい」と嫌がります
高学年に多い反応です。「これは◯◯の練習」と、何のための段かを言葉にしてください。「腰を棒につける練習」なら、赤ちゃんの練習ではなく、逆上がりの一部です。目的が分かれば、受け入れます。
全員ぶん割る時間がありません
全員ぶん割る必要はありません。できない子は、たいてい同じところでつまずいています。つまずきの場所ごとに2〜3通りの段を用意すれば、ほとんどの子がどれかに当てはまります。
割っても割ってもできない子がいます
割り方が「動き」に偏っていないか見てください。時間や条件で割ると、できることがあります。それでも難しいときは、その技の前に要る動き(体を支える力・逆さの感覚)が足りていないことが多く、技そのものを一度離れて、土台の運動あそびに戻すほうが早いです。
summaryまとめ
- 「できない」の多くは能力ではなく、課題の大きさの問題。大きすぎる課題を何回やっても、失敗が積み上がるだけ
- 割る方向は 時間・動き・条件 の3つ。つまずいている瞬間の直前で割る
- 段の大きさは「最初の1回でできる」。割りすぎを恐れない。割り足りないほうが害が大きい
- 後ろから教えると、どの段でも「できた」で終われる
- 3回続けてできたら1つ上げる。足した助けは、最後に足したものから外す
励ます前に、割る。できない子に要るのは、頑張れの回数ではなく、できる大きさの課題です。
参考にした資料
- Vygotsky, L. S. (1978). Mind in society: The development of higher psychological processes. Harvard University Press.
- Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191–215.
- Skinner, B. F. (1958). Teaching machines. Science, 128(3330), 969–977.
この記事の内容は公開時点のものです。公開されている研究や公的な資料をもとに plax labo 編集部が書いています。体調・ケガ・食事に関わる個別の判断は、医師や専門家にご相談ください。







