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多くの大人は、行動のいちばん最後の「結果」をいじろうとします。動かなかったら叱る、できなかったら注意する。でもこれは、いちばん疲れるレバーです。毎回ふりかぶらないと効かない。この記事では、応用行動分析の考え方をもとに、行動が起きる「前」を整える5つの工夫を書きます。精神論ではなく、大人がラクをするための仕込みの話です。
- 行動は「きっかけ → 行動 → 結果」で動き、省力で効くのは「きっかけ」の側であること
- きっかけを整える5つの工夫と、それぞれの研究の裏づけ
- 「ほめた回数を数える」だけで問題行動が減った日本の中学校の実例
行動は「きっかけ → 行動 → 結果」で動いている
応用行動分析では、子どもの行動を「きっかけ(A)→ 行動(B)→ 結果(C)」の3点で見ます。「片づけなさい」と言うのも、叱るのも、ほめるのも、全部このどこかに当たります。
叱るのは C(結果)への働きかけです。効かないわけではありませんが、起きてしまった行動のあとに、毎回、大人がエネルギーを使います。省力で効くのは A(きっかけ)のほう。専門的には「先行子操作」、平たく言えばきっかけや環境の調整です。冒頭の67.5%は、ここだけをいじった結果の数字です。
では、きっかけの整え方を5つ、順に見ていきます。
① 見える化する。子どもは耳より目で動く

口頭で「準備運動して、それが終わったらドリルね」と言っても、子どもの半分は聞いていません。耳からの一斉指示は、言ったそばから消えます。
そこで「今日の流れ」をホワイトボードや掲示で見えるようにする。「準備 → アップ → 練習 → 片づけ」を絵やカードで貼っておくと、子どもは自分で次を確かめられ、切り替えが楽になります。
正直に書くと、効果の確かさには幅があります。注意の切り替えが苦手な子ども向けのレビュー(2022)は問題行動の低減に有望としますが、切り替えへの寄与を切り分けた研究(Mouzakes ほか, 2025)は「根拠はまだ十分ではない」と慎重です。貼れば必ず効く魔法ではない。それでも、低コストで「次に何をするか」の見通しを上げる工夫として、試す価値はあります。道具の使い方は、別の記事(説明を減らす道具)にも書きました。
② 「どっちからやる?」。選択肢を渡す
「ドリルやりなさい」より、「赤と青、どっちのドリルからやる?」。これだけで、子どもにとって「やらされる」が「自分で選ぶ」に変わります。選択を取り入れた関わりを概観した系統的レビュー(Kestner ほか, 2023・32論文)は、日常の中に選択の機会を組み込む手続きが、取り組みを高め問題行動を減らす方向の知見をまとめています。
コツは、選ばせるのは「やるかやらないか」ではなく「どうやるか」だということ。順番、道具、場所。どれでもよい小さな選択を1つ渡すだけで、「自分で決めた」が立ち上がります。
③ 簡単なお願いを2〜3個続けてから、本題に入る

いきなり「片づけて」だと、体は固まります。そこで、応じやすい簡単なお願いを2〜3個続けてから、本題を出す。「ボール1個取ってくれる? ありがとう」「そのコーン、こっちに。いいね」「じゃあ、みんなで片づけよう」。
最初の2つは、もうできていることでかまいません。「はい」「できた」が続くと勢いがつき、3つ目の少し面倒なお願いにも応じやすくなる。Mace ほか(1988)の古典的な研究で示された手続きで、簡単なお願いを素早く2〜5個続け、その直後に応じにくいお願いを出すのがコツとされています。
④ 「◯したら△」の合言葉で、意志に頼らない
「ちゃんと準備しなさい」は、意志の力に頼る声かけです。そして意志の力は、子どもにも大人にも、あまり残っていません。
そこで「◯したら△」の形にする。「荷物を置いたら、まず水分」「靴をそろえたら、ドリルを開く」。この形の計画は、心理学で実行意図と呼ばれます。Gollwitzer と Sheeran(2006)が94の研究を統合したメタ分析では、ただ「がんばろう」と目標を立てるより、「◯したら△」の形で計画したほうが遂行が上がり、効果量は d=.65(中〜大)と報告されています。注意の切り替えが苦手な子どもでも、この形の計画で衝動を抑える課題の成績が改善した、という一連の研究もあります(Gawrilow ほか, 2007〜2011)。
⑤ 行動を名指しでほめる。叱るより多く
いちばん効くのに、いちばん足りていない声かけです。「えらいね」ではなく、「自分から水筒を出せたね」と、行動を名指しでほめる。行動特定的称賛と呼ばれ、K–12を対象にしたレビュー(Royer ほか, 2019)は、対象の論文が6本と少ないことに触れつつ、課題への取り組みを増やし不適切な行動を減らすことと関連する、低コストで有望な方略と位置づけています。
問題は、大人は「ほめているつもり」で足りていないこと。教室を観察した14研究のレビュー(Drake & Nelson, 2021)では、行動を名指しでほめる回数は1時間あたり5.9〜23.14回と研究によって大きくばらつき、ほめると叱るの比率も一貫しませんでした。「自然にしていれば十分ほめている」とは言えない、ということです。だから意識して増やす。よく言われる「叱る1に対してほめる3〜4」は、このレビューの結論ではなく一般的な目安ですが、方向は同じです。
faqよくある質問
怒らない=甘やかし、になりませんか
逆です。環境と決まりで、望ましい行動のほうを起きやすくする、攻めの設計です。すると自然と「ほめる材料」が増え、叱る場面そのものが減ります。基準は下げていません。
小さい子(幼児)にも効きますか
①の見える化と③の簡単なお願いから入るのは、小さい子ほど効きます。④の合言葉は、短く・1つだけにすれば幼児でも使えます。長い合言葉は覚えられません。
全部やろうとして続きません
1つで十分です。いちばん楽なのは①の「今日の流れを貼る」。貼ったものはその日の気力に左右されないので、忙しい日ほど助けてくれます。
summaryまとめ
- 行動は きっかけ → 行動 → 結果。叱るのは「結果」への働きかけで、毎回疲れる。省力で効くのは「きっかけ」
- きっかけを整える5つ:見える化・選択肢・簡単なお願いから入る・「◯したら△」の合言葉・行動を名指しでほめる
- 大人は「ほめているつもり」で足りていない。回数を数えるだけで、ほめる声かけは増える
- 子どもの性格を変えるのではなく、子どもが動きやすい段取りを大人が先に組む
子どもが自分から準備しないのは、やる気の問題ではなく、行動の「前」が整っていないだけ。きっかけを設計し直せば、怒鳴らなくても動き始めます。
参考にした資料
- Chazin, K. T., et al. (2021). Antecedent interventions for challenging behavior: A meta-analysis.(先行子のみの介入で改善した割合 27/40)
- Gollwitzer, P. M., & Sheeran, P. (2006). Implementation intentions and goal achievement: A meta-analysis of effects and processes. Advances in Experimental Social Psychology, 38, 69–119.
- Mace, F. C., et al. (1988). Behavioral momentum in the treatment of noncompliance. Journal of Applied Behavior Analysis, 21(2), 123–141.
- Royer, D. J., Lane, K. L., Dunlap, K. D., & Ennis, R. P. (2019). A systematic review of teacher-delivered behavior-specific praise on K–12 student performance. Remedial and Special Education, 40(2), 112–128.
- Drake, K. R., & Nelson, G. (2021). Natural rates of teacher praise in the classroom: A systematic review of observational studies. Psychology in the Schools, 58, 2404–2424.
- 庭山和貴(2020)「中学校における教師の言語賞賛の増加が生徒指導上の問題発生率に及ぼす効果」『教育心理学研究』68(1), 79–93.
- Kestner, K. M., et al. (2023). Systematic review of procedures and outcomes of choice-based interventions with children. Education and Treatment of Children.
この記事の内容は公開時点のものです。公開されている研究や公的な資料をもとに plax labo 編集部が書いています。体調・ケガ・食事に関わる個別の判断は、医師や専門家にご相談ください。







