目次
- 50m走が速い
- 初めて見た動きを、すぐまねできる
- ボールを投げるのが上手い
- 跳び箱が跳べない
- 自転車にすぐ乗れた
答えは、全部です。そして、だから「運動神経」はあいまいな言葉です。速さ、まねのうまさ、投げる技術、跳ぶ技術、バランス。性質の違うものを、ひとつの言葉で呼んでいる。
この言葉がやっかいなのは、「生まれつき」とセットで使われることです。「うちの子は運動神経が悪いから」と言われた子は、やる前にあきらめます。この記事では、この言葉を一度ほどいて、変えにくいものと変えられるものに分けます。分けると、やることが見えてきます。
- 「運動神経」という言葉が指しているものの正体
- 変えにくいもの(体格・筋の質)と、変えられるもの(調整力・経験)の違い
- 「運動神経が悪い」と言われた子に、家と教室でできること
「運動神経」という神経は、どこにもない
体の中に「運動神経」という名前の、1本の神経があるわけではありません。脳から筋肉へ命令を送る神経はありますが、それは誰にでも同じようにあります。
いわゆる「運動神経がいい」の中身を、研究の言葉で分けると、だいたいこうなります。
- 体力:速さ・力・持久力。筋肉と心臓と肺の性能
- 調整力(コーディネーション):体を思ったとおりに動かす力。バランス、リズム、反応、動きの切り替え、距離感
- 動きの引き出し:これまでに経験した動きの種類と数
「運動神経がいい子」と言われているのは、たいてい2つめと3つめが高い子です。初めて見た動きをすぐまねできるのは、似た動きを前にやったことがあるから。ボールを捕れるのは、距離感と反応の経験があるから。
変えにくいもの

正直に書くと、変えにくいものもあります。
- 体格。身長、手足の長さ。これは遺伝の影響が大きい
- 筋肉の質。速く縮む筋肉と、長く動ける筋肉の割合。これも生まれつきの差がある
- 成長の時期。早く体が大きくなる子と、ゆっくりの子
これらは、短距離走のトップ選手になれるかどうか、という話には効きます。でも、運動が楽しめるか、ふつうに上手くなれるか、という話には、ほとんど効きません。学校の体育で困らない、好きなスポーツで仲間と一緒に動ける、というレベルは、体格に関係なく届きます。
変えられるもの
調整力と、動きの引き出しは、経験で育ちます。これは研究でも現場でも、はっきりしています。
文部科学省の「幼児期運動指針」が、幼児期に「多様な動き」を経験することをすすめているのは、まさにこのためです。走る・跳ぶ・投げる・捕る・ぶら下がる・転がる・バランスをとる。この種類が多い子ほど、新しい動きを覚えるのが速い。初めて見た動きを「あ、あれに似てる」と、体が気づけるからです。
逆に、「運動神経が悪い」と言われる子の多くは、経験した動きの種類が少ない。苦手だから避ける、避けるから経験が増えない、増えないからもっと苦手になる。この循環のどこかを切れば、変わります。
家でできること:動きの種類を増やす

上手くする必要はありません。種類を増やすだけです。
- 公園の遊具を、全部使う。ジャングルジム(のぼる・ぶら下がる)、鉄棒(回る)、すべり台(バランス)
- ボールは、大きさの違うものを3つ。大きいボール(蹴る・抱える)、テニスボール(投げる・捕る)、風船(追う・はじく)
- 歩き方を変える。スキップ、ケンケン、後ろ歩き、横歩き、くまさん歩き
- 水の中。プールは、陸と違う動きを全部使う
どれも、週に1回でよい。「上手くなった」ではなく「やったことがある動きが増えた」を目標に。家でできる遊びは、別の記事(家でできる「運動あそび」10分)に書きました。
教室でできること:苦手な動きを、小さくして出す
運動が苦手な子は、できない動きの前で止まります。止まると経験が増えない。だから、止まらない大きさにして出します。
- 跳び箱が跳べない → 跳び箱に手をついて、またぐだけ
- 逆上がりができない → 鉄棒におなかをつけて、足を1回蹴るだけ
- ボールが捕れない → 風船を捕る → 大きいボールをバウンドで → テニスボール
「できた」が1回出ると、その動きは引き出しに入ります。入った動きは、別の動きを覚えるときの手がかりになります。
大人になってからも、変わる
調整力が育つのは子どものころが中心ですが、大人になってから運動を始めた人が上達するのも、同じしくみです。経験が増えれば、引き出しが増える。「運動神経が悪いから」と言ってきた大人が、40歳でダンスを始めて踊れるようになる、ということはふつうに起きます。
子どもに「運動神経」の話をするなら、「生まれつき」の代わりに「やった動きの数」と言ってあげてください。それは、本当のことで、しかも変えられることです。
faqよくある質問
親が運動が苦手だと、子どもも苦手になりますか
体格や筋肉の質は、ある程度受け継がれます。でも、「動きの経験」は受け継がれません。親が苦手だと、家で体を動かす機会が減りがちで、それが子どもの経験の少なさになる。問題は遺伝ではなく、機会です。親が苦手でも、一緒に公園に行くことはできます。
何歳までに始めないと、手遅れですか
手遅れはありません。調整力がいちばん伸びやすいのは小学生のころと言われますが、中学生でも高校生でも、経験が増えれば伸びます。「ゴールデンエイジ」の話は、別の記事に詳しく書きました。
1つの競技をずっとやっているのに、運動神経が悪いままです
1つの競技で使う動きは、意外と限られています。サッカーなら、投げる・捕る・ぶら下がるは出てきません。その競技に無い動きを、別の場所で足す。それが、その競技の上達にも戻ってきます。
summaryまとめ
- 「運動神経」という神経は無い。中身は体力・調整力・動きの引き出し。「いい子」はたいてい後ろの2つが高い
- 体格と筋肉の質は変えにくい。調整力と経験は変えられる。ふつうに上手くなるレベルは、体格に関係なく届く
- 家では動きの種類を増やす。教室では苦手な動きを小さくして出す
- 「生まれつき」ではなく「やった動きの数」と言いかえる
運動神経が悪い子は、いません。やったことのない動きが多い子が、いるだけです。
参考にした資料
- 文部科学省「幼児期運動指針」(2012年)
- 中村和彦(山梨大学)による「36の基本動作」の整理
- 公益財団法人日本スポーツ協会「発育期のスポーツ活動ガイド」(調整力・多様な動きの経験)
この記事の内容は公開時点のものです。公開されている研究や公的な資料をもとに plax labo 編集部が書いています。体調・ケガ・食事に関わる個別の判断は、医師や専門家にご相談ください。








