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春の大会のあと、その子は練習に来なくなりました。「足が痛い」と言っていましたが、病院では何も見つからなかった。コーチが電話をすると、本人は「もういい」とだけ言った。
これが、燃え尽き(バーンアウト)の典型的な形です。さぼっていた子ではなく、がんばっていた子に起きる。そして、起きる前に、たいてい誰も気づかない。この記事では、研究で示されているサインと、その手前の小さな変化、気づいたときにやることを書きます。
- 燃え尽きが、さぼりではなく「がんばりすぎ」の先にある理由
- 研究で示されている3つのサインと、その手前に出る小さな変化
- 気づいたときに、指導者と保護者がやること・やらないこと
燃え尽きは、「がんばりすぎ」の先にある
スポーツの燃え尽きは、研究の世界で「3つの要素」で説明されます。
- 心と体の疲れが抜けない。寝ても、休んでも、だるい
- やっていることの価値が感じられない。好きだったはずの競技が、どうでもよくなる
- 自分はできていない、という感覚。実際にはできているのに、達成感が無い
やる気が無い子と似て見えますが、順番が逆です。やる気が無い子は、最初から動かない。燃え尽きた子は、動きすぎたあとに止まる。だから、止まる前の数か月は、むしろよく動いています。「あんなにがんばっていたのに」は、燃え尽きの特徴そのものです。
起きやすいのは、練習量が多い・休みが無い・結果を強く求められている・本人が「期待に応えなければ」と思っている、こういう条件が重なったときです。小学校の高学年から中学生に多い。
止まる前に、見える小さな変化

3つの要素がはっきり出たときには、もうかなり進んでいます。その手前に、小さな変化が出ます。
- 練習に来るのが、早すぎる・遅すぎる。早く来て黙々とやるか、ぎりぎりに来て静かにいるか。どちらも「楽しみに来ている」ではない
- 笑わなくなる。練習中の、友だちとのじゃれ合いが減る。真顔で、言われたことだけをやる
- ミスを引きずる。前なら切り替えられていたミスで、しばらく動けなくなる
- 「疲れた」が増える。体の疲れではなく、口ぐせのように
- 体のあちこちが痛い。検査しても異常が無い痛み。心の疲れは、体の痛みとして出ることがある
- 休みの日に、何もしない。遊びにも行かず、家でぼんやりしている
- 結果だけを気にする。「勝てた?」「選ばれた?」ばかりで、「楽しかった?」が消える
このうち3つ以上が、2〜3週間続いていたら、燃え尽きの手前を疑います。1日や2日なら、ただの疲れです。続くかどうかで見ます。
本人に聞いてよい3つの質問
本人に「燃え尽きてない?」と聞いても、答えられません。聞くなら、具体的に。
- 「最近、練習、楽しい?」(楽しいかどうかを、久しぶりに聞かれたこと自体に、本人が気づく)
- 「寝ても疲れが取れない感じ、ある?」
- 「やめたい、と思ったこと、ある?」
3つめは、聞きにくい質問です。でも、聞かれたことで「やめたいと思ってもいいんだ」と、本人の中で何かがほどけることがあります。聞いて、答えがどうであれ、叱らない・説得しない。それだけです。
気づいたときにやること

休ませる。中途半端にではなく
まず、休みを入れます。「週1回休もう」ではなく、2週間、競技から完全に離れるくらい。米国小児科学会は、子どものスポーツについて、週に1〜2日の休みと、年に合計3か月、その競技から離れる期間を持つことをすすめています。燃え尽きの手前なら、それより多くてよい。
休ませるとき、「休んでも、ポジションも出番も変わらない」と、はっきり言葉で伝えてください。これが無いと、休むことがまた不安になります。
結果の話を、しばらくやめる
指導者も保護者も、「勝てた?」「選ばれた?」を、しばらく口にしない。代わりに「楽しかった?」「誰と一緒にやった?」。結果を聞かれないことで、本人の中の「期待に応えなければ」が、少しずつゆるみます。
自分で決めることを、増やす
燃え尽きた子は、たいてい「言われたことを全部やって」きた子です。何をやるか、どのくらいやるか、を自分で決める場面が無かった。戻ってきたら、小さな選択から渡します。「今日は何からやる?」「今週、練習は何回にする?」。自分で決めたことには、人は燃え尽きにくい。
やらないこと
- 「せっかくここまで来たのに」と言う(本人がいちばん分かっている)
- 「気合いが足りない」と言う(気合いで燃え尽きている)
- 休んでいるあいだに、ほかの子の活躍を伝える
- 戻ってきた日に、前と同じ量をやらせる
保護者と指導者で、見ているものを合わせる
教室では元気に見えても、家では「行きたくない」と言っている。あるいはその逆。燃え尽きは、片方からは見えないことが多い。
指導者から保護者に、「最近、家でどうですか」と聞く。保護者から指導者に、「家では疲れたとよく言います」と伝える。このやりとりが、1回あるだけで、見落としが減ります。
faqよくある質問
休ませると、そのままやめてしまいませんか
やめることもあります。でも、休ませずに続けさせて燃え尽きた子は、その競技だけでなく、運動そのものを嫌いになることがあります。休んでやめた子は、別の競技で戻ってくることが多い。どちらが長い目で良いかは、はっきりしています。
本人が「休みたくない」と言います
休みたくないのは、休むと置いていかれる・期待を裏切る、という不安からです。「休みたくない」をそのまま聞かず、「休んでも何も変わらない」を先に約束して、それから短い休み(1週間)から始める。休んでみて何も変わらなかった、という経験が、次の休みを楽にします。
燃え尽きと、ただの反抗期は、どう違いますか
反抗期は、大人に対する態度が変わります。燃え尽きは、競技に対する態度が変わります。反抗期の子は、親には反抗しても、好きな競技は楽しんでいる。競技そのものが楽しくなくなっているなら、燃え尽きを疑ってください。両方が重なることもあります。
summaryまとめ
- 燃え尽きは、さぼりではなくがんばりすぎの先にある。がんばっている子ほど、気づかれない
- 3つの要素は、疲れが抜けない・価値が感じられない・できている気がしない。手前の小さな変化(笑わない・ミスを引きずる・体の痛み・結果だけ気にする)が2〜3週間続くかで見る
- やることは、しっかり休ませる・結果の話をやめる・自分で決めることを増やす。「せっかく」「気合い」は言わない
- 保護者と指導者で、見ているものを合わせる
まじめな子を、まじめなまま守るのは、まわりの大人の設計です。
参考にした資料
- Raedeke, T. D. (1997). Is athlete burnout more than just stress? A sport commitment perspective. Journal of Sport and Exercise Psychology, 19(4), 396–417.
- Brenner, J. S., & AAP Council on Sports Medicine and Fitness (2016). Sports specialization and intensive training in young athletes. Pediatrics, 138(3), e20162148.
この記事の内容は公開時点のものです。公開されている研究や公的な資料をもとに plax labo 編集部が書いています。体調・ケガ・食事に関わる個別の判断は、医師や専門家にご相談ください。






