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半年後、その教室の子たちは、たしかにミスが減りました。同時に、むずかしいパスを出す子がいなくなりました。みんな、いちばん近い味方に、いちばん安全なパスを出す。ミスはしない。でも、上手くもならない。
「失敗をこわがらないで」と、コーチは何度も言いました。でも子どもが見ているのは言葉ではなく、失敗したあとに何が起きるかです。この記事では、失敗をこわがらない子を育てる練習を、言葉ではなく設計の話として書きます。
- 「失敗していいよ」と言っても、子どもが安全なプレーを選ぶ理由
- 失敗が自然に起きて、自然に流れる練習の5つの設計
- 「挑戦の失敗」と「不注意の失敗」を分けて扱う方法
子どもは「失敗のあとに起きること」を学ぶ
心理学では、人が「ここでは失敗しても大丈夫だ」と感じている状態を「心理的安全性」と呼びます。もとは職場の研究から出てきた言葉で、心理的安全性の高いチームほど、間違いを報告し、学び、結果として成果が上がることが報告されています。
スポーツの練習でも同じです。失敗したあとに、罰がある・見ないふりをされる・ため息をつかれる。これが続くと、子どもは「失敗しないこと」が目標になります。失敗しないいちばん簡単な方法は、むずかしいことをしないことです。
逆に、失敗したあとに、拾ってもらえる・次の手を一緒に考えてもらえる・「ナイストライ」と言われる。これが続くと、子どもはむずかしいことに手を出します。上手くなるのは、こちらの子です。
大事なのは、これを言葉で伝えるのではなく、練習の中で毎回起こすこと。「失敗していいよ」と100回言うより、失敗したあとに同じ対応を100回するほうが、確実に伝わります。
設計① 成功率が5〜7割の課題にする

失敗がまったく起きない練習では、「失敗しても大丈夫」を学ぶ機会がありません。逆に、失敗ばかりの練習では、ただつらい。目安は10回やって5〜7回できるくらい。
全員同じ課題だと、この割合にはまりません。コーンの距離を3段階にする、ゴールの大きさを変える、相手の人数を変える。同じ練習の中で、子どもが自分の難しさを選べる形にします。「自分で選んだむずかしさ」での失敗は、こわくありません。
設計② 失敗したあとの「決まった動き」を作る
失敗したあと、何をすればいいか分からない時間が、いちばんこわい。ボールを拾って、列の後ろに戻る。コーンを立て直して、手を挙げる。失敗のあとの動きを決めておくと、失敗は「流れの一部」になります。
サッカーの練習なら「ミスしたら、ボールを拾って次の人に渡す」。体操なら「落ちたら、マットを直して合図」。動きが決まっていると、まわりの子も、コーチも、失敗を特別なこととして扱わなくなります。
設計③ コーチの反応を、先に決める

失敗が起きた瞬間の、自分の最初の一言を決めておきます。おすすめは「お、いったね」か「惜しい、次」のどちらか。ため息・沈黙・首をふる、は禁止。これは子どもへの指導ではなく、コーチ自身の練習です。
なぜ先に決めるかというと、その場で考えると、人は反射的に残念そうな顔をするからです。顔は言葉より早く、正確に伝わります。
設計④ 「今日の挑戦」を1つ宣言させる
練習の最初に、1人1つ「今日やってみること」を言わせます。「利き足じゃないほうで蹴る」「いちばん高いハードルを跳ぶ」「声を出す」。宣言した挑戦で失敗するのは、成功です。練習の最後に「挑戦できた人」を聞いて、できたかどうかでなくやったかどうかで拍手します。
設計⑤ 挑戦の失敗と、不注意の失敗を分ける
すべての失敗を同じに扱うのは、実は不公平です。むずかしいパスを出して失敗したのと、よそ見をしていて簡単なパスを失敗したのは、別のものです。
- 挑戦の失敗 … むずかしいことをやって、できなかった → 拾う。ほめる
- 不注意の失敗 … 見ていなかった、聞いていなかった → 短く指摘する。「見てからやろう」
これを分けて言うと、子どもは「失敗がだめなのではなく、やらないことがだめなんだ」と理解します。
試合でも、同じことが言えるか
「練習では失敗していい。試合では勝て」。この2つを両方言うと、子どもは試合で固まります。試合でも挑戦を1つ決めてよい、と言える教室は強い。負けても「今日の挑戦はできた」と言える日があると、負け試合が無駄になりません。
とはいえ、試合の全部を挑戦にはできません。「前半は挑戦、後半は勝ちに行く」のように、挑戦する場所を試合の中に作るのが現実的です。
faqよくある質問
失敗しても平気すぎて、ふざける子がいます
それは「失敗をこわがらない」のではなく、「課題がやさしすぎる」か「挑戦していない」のどちらかです。その子だけ難しさを一段上げる。挑戦の宣言をさせる。ふざける余裕が無くなる難しさで、その子は本気になります。
保護者が結果だけを見て、子どもを責めます
練習の最後に、全員の前で「今日の挑戦」を発表させて、保護者にも聞いてもらう。「できたか」でなく「やったか」を見る文化を、保護者の目の前で作ります。帯や連絡でも「今日は◯◯に挑戦しました」と書く。結果の前に、挑戦が言葉になっていれば、家での会話が変わります。
怒らないと、集中しない子がいます
怒られて集中しているのは、「怒られないように」集中している状態です。それは失敗を避ける集中で、挑戦の集中ではありません。設計①で課題の難しさをその子に合わせると、怒らなくても集中します。難しさが合っていないときに、怒りが必要になります。
summaryまとめ
- 子どもは「失敗していい」という言葉ではなく、失敗したあとに何が起きるかを学ぶ
- 設計は5つ。成功率5〜7割・失敗のあとの決まった動き・コーチの最初の一言を決める・今日の挑戦を宣言・挑戦の失敗と不注意の失敗を分ける
- 試合でも、挑戦する場所を作る。「練習だけ失敗していい」は、試合で子どもを固まらせる
ミスの少ないチームと、上手くなるチームは、別のものです。選ぶなら、後者を。
参考にした資料
- Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383.
- キャロル・S・ドゥエック『マインドセット「やればできる!」の研究』(草思社、2016年)
この記事の内容は公開時点のものです。公開されている研究や公的な資料をもとに plax labo 編集部が書いています。体調・ケガ・食事に関わる個別の判断は、医師や専門家にご相談ください。








