目次
緊張している子に「落ち着いて」と言っても、落ち着けません。本人も落ち着きたいのに、できないから固まっているのです。この記事では、研究で効果が示されている言い換えと、試合の前・直前・途中でそれぞれ効く言葉を書きます。
- 「落ち着いて」「リラックス」が逆効果になりやすい理由
- 研究で効果が示されている、緊張の「言い換え」
- 試合前・直前・途中、それぞれで使える言葉と、使わない言葉
「落ち着いて」が効かない理由
緊張しているとき、体の中では心臓が速く打ち、呼吸が浅くなり、手が冷たくなっています。これは体が「何か大事なことが起きる」と判断して、力を出す準備をしている状態です。
「落ち着いて」は、この状態を止めろという指示です。でも、体は簡単には止まりません。止まらないのに「落ち着いて」と言われると、子どもは「落ち着けない自分はだめだ」と、緊張の上にもう1つ不安を重ねます。これが逆効果の正体です。
もう1つ。「緊張してる?」と聞くのも、あまりよくありません。聞かれた子は、自分の緊張に目を向けてしまいます。向けた先に、答えはありません。
緊張を「ワクワク」と言い換える
アメリカの研究者が、人前で歌う・スピーチをする・計算の試験を受ける、という緊張する場面で、実験をしました。本番の前に、ある人たちには「落ち着いている」と自分に言わせ、別の人たちには「ワクワクしている」と自分に言わせた。結果は、「ワクワクしている」と言った人たちのほうが、歌も、スピーチも、試験の点も、よかった。
理由はこうです。緊張とワクワクは、体の状態(心臓が速い、呼吸が浅い)がほとんど同じ。違うのは、それを「悪いこと」と受け取るか「楽しみなこと」と受け取るか。「落ち着く」は体の状態を変えようとするので失敗しますが、「ワクワク」は受け取り方だけを変えるので、できる。
子どもに使うなら、こうです。
- 「緊張してる?」→「ドキドキしてる? それ、楽しみなときと同じやつだよ」
- 「落ち着いて」→「ドキドキは、体が準備できたってこと」
小さい子には、「ドキドキは、がんばるパワーがたまってる音」でもかまいません。嘘ではありません。体の状態としては、本当にそうです。
前の日・当日の朝に言うこと
試合の前の日や朝は、結果の話をしない時間です。「勝てるといいね」「がんばってね」は、言ったほうは応援のつもりでも、聞いた子には「期待されている」という重さになります。
言うなら、本人がコントロールできることを1つだけ。
- 「今日は、最初のボールを思いきりね」
- 「声を出す、だけ決めていこう」
- 「シュートが入るかは分からないけど、走るのはできる」
勝つ・入る・決めるは、相手がいる話で、本人だけでは決められません。走る・声を出す・最初のプレーに行く、は本人が決められます。決められることに目を向けると、緊張は「やること」に変わります。
直前に言うこと
試合の直前は、言葉を減らします。長い話は入りません。
- 呼吸を1つ。「鼻から吸って、口から長く吐く。3回」。吐く息を長くすると、心臓はゆっくりになります。これだけは、体を直接変えられる方法
- いつもの動きを1つ。ジャンプ3回、手をたたく、靴ひもを結び直す。毎回同じことをする(ルーティン)と、体が「いつもの練習」と同じモードに入る
- 最初にやることを1つ言う。「最初のボールに行く」「最初のサーブは真ん中」。試合全体ではなく、最初の10秒だけを決める
「楽しんで」も、よく使われる言葉です。悪くはありませんが、緊張している子に「楽しめ」は、ときに「楽しめない自分」への圧になります。言うなら「楽しんで」より「思いきり」のほうが、体の向きに合います。
試合の途中、失敗したあと
ミスのあとに固まる子には、次の1つだけを言います。
- 「次、ボール見て」
- 「次の1本、走る」
「ドンマイ」「気にするな」は、ミスを思い出させます。「気にするな」と言われて気にしない人はいません。ミスには触れず、次の動きを1つ言う。それだけで、頭はミスから離れます。
faqよくある質問
試合になると、練習でできることができなくなります
緊張すると、練習で「考えながら」やっていることは出なくなり、「体が勝手に」やれることだけが残ります。つまり、試合で出ないのは、まだ体に入りきっていない動きです。練習の最後に試合の形(点を数える、相手がいる、1回しかない)を少し入れると、「考えずにできる」範囲が広がります。
緊張して、試合の前におなかが痛くなります
体の反応としてよくあることで、本人のせいではありません。朝ごはんを軽めにする(おにぎりとバナナ程度)、トイレに早めに行っておく、呼吸を長く吐く。「おなか痛いの? 大丈夫?」と何度も聞くと、意識がそこに向きます。1回だけ確かめて、あとは「ドキドキは準備ができた音」の話に戻します。
まったく緊張しない子は、それでいいのですか
いいです。ただ、まったく緊張しない子は、試合の途中で集中が切れることがあります。その子には「最初の10秒」ではなく、「後半の最初の1本」を決めておくと、山場で入り直せます。
summaryまとめ
- 「落ち着いて」は効かない。体は止められないし、「落ち着けない自分」という不安が増える
- 緊張は消さずに使う。「ドキドキは体の準備ができた音」と言い換える
- 言うのは、本人が自分で決められることを1つ。勝つ・入るは相手のいる話
- 直前は、呼吸・いつもの動き・最初の10秒。ミスのあとは、次の1つ
緊張する子は、真剣な子です。その真剣さを「悪いもの」にしないことが、周りの大人の仕事です。
参考にした資料
- Brooks, A. W. (2014). Get excited: Reappraising pre-performance anxiety as excitement. Journal of Experimental Psychology: General, 143(3), 1144–1158.
この記事の内容は公開時点のものです。公開されている研究や公的な資料をもとに plax labo 編集部が書いています。体調・ケガ・食事に関わる個別の判断は、医師や専門家にご相談ください。









