目次
半分は本当で、半分は言いすぎです。この記事では、言葉の由来と研究で分かっていることを整理したうえで、この年齢の子にいろいろな運動をすすめる本当の理由を書きます。「逃したら終わり」という話ではないので、安心して読んでください。
- 「ゴールデンエイジ」という言葉の由来と、本当のところ
- 1つの競技に早くから絞る「早期専門化」で起きること
- 9〜12歳の練習に、明日から入れられる3つの工夫
言葉の由来は、90年前の「成長の曲線」
よく引かれるのが、1930年にアメリカの医学者スキャモンが描いた成長の曲線です。体の器官を4つのグループに分け、大人になるまでにどう育つかを線で示したもので、このうち神経系(脳や神経)は、生まれてから数年でぐんと育ち、小学生のうちにほぼ大人に近づく形をしています。
ここから、「神経が育っているうちに、動きの型を入れておくべきだ」という考えが生まれ、日本では「プレゴールデンエイジ(5〜8歳)」「ゴールデンエイジ(9〜12歳)」という呼び名で広まりました。
神経系が早く育つこと自体は、本当です。だから、小さいうちに体をいろいろに動かした経験は、確かにあとで効いてきます。
言いすぎなのは、この2つ
①「見た動きを即座に覚える」
この年代の子が、新しい動きをまねしやすいのは事実です。でも、何でも即座にできるわけではありません。むずかしい動きは、この年齢でもくり返しが要ります。「即座に」を期待すると、できない子を「センスがない」と見てしまいます。
②「この時期を逃すと、一生身につかない」
これは研究で支持されていません。中学生でも、大人でも、新しい運動は学べます。学びの速さに差はあっても、「扉が閉まる」わけではありません。この言葉がもたらす害は、保護者を不安にさせ、早く・たくさん・1つの競技に、と急がせることです。
1つの競技に早くから絞ると、何が起きるか
「早くから1つに絞る」ことを早期専門化と呼びます。小児科やスポーツ医学の学会は、ほとんどの競技について、小学生のうちから1つに絞ることをすすめていません。理由は3つです。
- ケガが増える。同じ動きばかりくり返すと、使う部位がかたより、成長期特有の使いすぎのケガ(野球肘・オスグッドなど)につながる
- 燃え尽きてやめてしまう。小さいうちから競技一色の生活は、本人が選んだものでないことが多く、思春期に離れていく割合が高い
- 伸びしろが狭くなる。いろいろな動きの土台がある子のほうが、あとで専門の技術を積み上げたときに高くなる
実際、いくつかの研究では、トップレベルに届いた選手の多くが、子どもの頃に複数の競技や遊びを経験していたと報告されています(これを「サンプリング」と呼びます)。例外は体操やフィギュアスケートのように、ごく若い年齢で競技の頂点が来る種目だけです。
「上手い子」が、ただ早く育っているだけのこともある
小学生の時期は、生まれ月で体格が大きく違います。4月生まれと翌年3月生まれでは、ほぼ1年の差。この時期に「上手い」と見える子は、技術ではなく、体が先に育っているだけのことがよくあります。
これは「相対年齢効果」と呼ばれ、多くの競技で、選抜チームに早生まれ(4〜6月生まれ)が多いことが知られています。遅く生まれた子は、同じ練習をしていても評価されず、やめていく。それは才能の差ではなく、暦の差です。
さらに、身長が急に伸びる時期(多くは小学校高学年〜中学)には、手足の長さが変わって体の感覚がずれ、一時的に下手になる子がいます。これも知られている現象で、数か月で戻ります。ここで「伸びなくなった」と判断して見切ると、いちばん伸びる手前で手を離すことになります。
練習に、明日から入れられる3つの工夫
① ウォームアップに「ふだんと逆の動き」を1つ
利き手と逆の手でボールをキャッチ、後ろ向きで走る、片足でバランスを取りながらパス。競技の動きを崩さず、動きの幅が広がります。5分でできます。
② 月に1回、競技と違う運動の日
サッカー教室なら鬼ごっこと的当て、体操教室なら走る・投げる。「今日は◯◯の日」と名前を付ければ、子どもは遊びとして入ってきます。多くの教室が実際にやっていて、やめる子が減ったという声を聞きます。
③ 評価を「今の上手さ」でしない
選手を選ぶとき、生まれ月を一度見る。遅く生まれた子・急に伸びている子は、別の目で見る。「今できるか」ではなく「3か月前からどう変わったか」で見ると、見落としていた子が見えてきます。
faqよくある質問
結局、1つの競技に絞るのはいつからがいいのですか
多くの研究や学会の見解では、早くても中学生以降が目安です。それまでは、主にやる競技があってもかまいませんが、ほかの運動や遊びも並行してあるのが望ましい。ただし体操・フィギュアスケート・ダイビングなど、競技の頂点が10代前半に来る種目は事情が違います。
本人が1つの競技しかやりたがりません
無理にほかの競技へ連れていく必要はありません。同じ競技の中で、ポジションや役割を変える、別の動きを遊びとして混ぜる(サッカーの中で手を使うゲームをする、など)だけでも、動きの幅は広がります。本人が好きで続けていることが、いちばん大きな土台です。
もう13歳です。ゴールデンエイジを逃したのでしょうか
逃していません。中学生でも、高校生でも、大人でも、運動は学べます。小さい頃に運動が少なかった子は、最初の数か月は人より時間がかかるかもしれませんが、追いつけないわけではありません。「もう遅い」と大人が言うことだけが、本当に遅くさせます。
summaryまとめ
- 神経系が早く育つのは本当。だから小さいうちにいろいろな動きを経験するのはよい
- 「即座に覚える」「逃すと一生」は言いすぎ。何歳でも運動は学べる
- 小学生のうちから1つに絞ると、ケガ・燃え尽き・伸びしろの狭まりにつながる
- 「上手い子」は、体が早く育っているだけのこともある。生まれ月と、急に伸びる時期を見る
ゴールデンエイジという言葉は、「今のうちに詰め込め」ではなく、「今のうちに、広く遊ばせよう」と読み替えると、本来の意味に近づきます。
参考にした資料
- Scammon, R. E. (1930). The measurement of the body in childhood. In The Measurement of Man. University of Minnesota Press.
- Jayanthi, N., et al. (2013). Sports specialization in young athletes: Evidence-based recommendations. Sports Health, 5(3), 251–257.
- Brenner, J. S., & AAP Council on Sports Medicine and Fitness. (2016). Sports specialization and intensive training in young athletes. Pediatrics, 138(3).
- Bergeron, M. F., et al. (2015). International Olympic Committee consensus statement on youth athletic development. British Journal of Sports Medicine, 49(13), 843–851.
- Musch, J., & Grondin, S. (2001). Unequal competition as an impediment to personal development: A review of the relative age effect in sport. Developmental Review, 21(2), 147–167.
この記事の内容は公開時点のものです。公開されている研究や公的な資料をもとに plax labo 編集部が書いています。体調・ケガ・食事に関わる個別の判断は、医師や専門家にご相談ください。







