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問題はそのあとです。叱られた子は、練習が終わるまでコーチと目を合わせない。列のいちばん後ろで、小さく動く。帰りに「さようなら」を言わない。そして次の週、「行きたくない」と言う。
叱ったことで子どもが離れるのではありません。叱ったあとに、戻してもらえなかったことで離れます。この記事では、叱り方ではなく「戻し方」を書きます。叱るときのルール(短く・行動を・その場で)は別の記事に書いたので、ここではその続きです。
- 子どもが離れるのは「叱られたとき」ではなく「戻されなかったとき」である理由
- その日のうちに関係を戻す3つの手
- 言いすぎたときに、大人が謝る形
「ずれて、戻す」が信頼をつくる
乳幼児と親の関わりを研究してきたエドワード・トロニックらは、親子のやりとりがいつも噛み合っているわけではないことを示しました。むしろ、噛み合わない瞬間(ずれ)は頻繁に起きていて、大事なのはずれないことではなく、ずれたあとに戻せることだと報告しています。戻す経験を繰り返した子は、「ずれても戻れる」という安心を持ちます。
スポーツの練習も同じです。叱る=ずれ。これは避けられないし、避けなくてよい。問題は、そのあと戻す手を持っているかどうかです。戻す手が無いコーチは、叱るたびに子どもを1人ずつ失います。戻す手があるコーチは、叱っても子どもが離れません。「厳しいけど、あの先生は好き」と言われるコーチは、ここが上手い人です。
手① 行動は止める。人は戻す

叱った直後、できるだけ早く、叱った内容と人を分けて言葉にします。
「さっきのは、人に向かって蹴ったから止めた。危ないから。それだけ。◯◯のことは、ちゃんと見てるよ」
ポイントは、「それだけ」です。子どもは、叱られると「自分という人間が否定された」と受け取ります。「止めたのはあの行動だけで、お前のことは変わらず見ている」と、はっきり言葉で切り分ける。これを言わないと、子どもは自分で切り分けられません。
言うタイミングは、叱ってから5分以内。練習の流れの中で、その子のそばを通るときに、小さい声で。全員の前でやる必要はありません。
手② 役割を渡す
言葉より強いのが、仕事を頼むことです。
「次の練習のコーン、並べてくれる?」「ボールを集めてきて」「◯◯くんに、やり方を見せてあげて」。叱られた直後に役割を頼まれた子は、「まだ信頼されている」と、言葉を介さずに理解します。頼まれた仕事をやりきったら、「ありがとう、助かった」。これで、ずれは戻っています。
役割は小さくてよい。むしろ小さいほうがよい。大きな役割は「ごほうび」に見えてしまい、まわりの子が不公平だと感じます。コーンを3つ並べる、くらいでちょうどいい。
手③ 帰りに、別の話でひとこと

練習が終わったとき、叱ったこととは関係ない話で、ひとこと声をかけます。
「今日のシュート、後半よかったな」「来週、試合だね」「靴、新しくした?」。内容は何でもいい。大事なのは、「叱った話を蒸し返さない」ことと、「ほかの子と同じように声をかける」ことです。
叱ったあと、その日のうちに叱ったのと別の話を1回する。これだけで、子どもは「終わった」と分かります。これをしないと、叱られた記憶が週をまたいで残り、次の練習の入口で足が重くなります。
言いすぎたとき、大人が謝る
叱っているうちに、言葉が強くなった。「何回言ったら分かるんだ」「やる気が無いなら帰れ」。あとで思い返して、言いすぎたと感じたら、謝ります。
「さっき、言い方がきつかった。止めたのは正しいと思っているけど、あの言い方は良くなかった。ごめん」
謝ると威厳がなくなる、と心配する人がいます。逆です。子どもは、大人が謝る姿を見て、「間違えたら謝ればいい」と学びます。これは、失敗をこわがらないことの、いちばんの見本です。謝らないコーチの教室では、子どもも謝りません。
謝るのは、叱った内容ではなく、言い方です。「止めたこと」まで謝ると、何がだめだったのかが消えます。
保護者に、先に伝える
強く叱った日は、保護者にこちらから伝えます。子どもから「怒られた」とだけ聞いた保護者は、何が起きたか分からず、教室への不信になります。
「今日、ボールを人に向けて蹴ったので、その場で強く止めました。そのあと、本人とは話をして、練習の後半はちゃんとやっていました。家で聞かれたら、『コーチはちゃんと見てくれてるよ』と言ってもらえると助かります」
事実・戻したこと・家でのお願い。この3つを、短く。言いすぎて謝った日は、謝ったことも書きます。
faqよくある質問
同じことで、何度も叱ることになる子がいます
叱って戻す、を繰り返すのは消耗します。その子については、叱る前に「何をすればいいか」が伝わっているかを疑ってください。「人に向かって蹴らない」ではなく「蹴るのはゴールの方向だけ」と、やることのほうを言う。叱る回数は、指示の出し方で減ります。
みんなの前で叱ってしまいました
全員の前で叱ったなら、戻すのも全員の前で。「さっき◯◯を止めたけど、◯◯は今、ちゃんとやってる」。まわりの子に「あの子は許された」と見せることが、本人にとっての戻しになります。
戻しても、本人がふてくされたままです
その日は、それでかまいません。戻しは「その場で機嫌を直させる」ことではなく、「道を閉じない」ことです。帰りのひとことを言って、次の週、いつもどおり名前を呼ぶ。2〜3回続ければ戻ります。急がないこと。
summaryまとめ
- 子どもが離れるのは、叱られたときではなく戻されなかったとき
- 戻す手は3つ。行動と人を分けて言葉にする・小さな役割を渡す・帰りに別の話でひとこと。すべて、その日のうちに
- 言いすぎたら、言い方を謝る。叱った内容は謝らない
- 強く叱った日は、保護者にこちらから伝える
叱れないコーチより、戻せるコーチのほうが、子どもは信頼します。
参考にした資料
- Tronick, E. Z., & Gianino, A. (1986). Interactive mismatch and repair: Challenges to the coping infant. Zero to Three, 6(3), 1–6.
- 公益財団法人日本スポーツ協会ほか「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」(2013年)
この記事の内容は公開時点のものです。公開されている研究や公的な資料をもとに plax labo 編集部が書いています。体調・ケガ・食事に関わる個別の判断は、医師や専門家にご相談ください。







